今日は、ならまち月燈の店舗デザインについてお話します。
この町家をお借りすることができた時、内装設計をお願いしたい先生は一択でした。上町研究所、定方三将先生です。先生は個人住宅の設計がご専門で、あまり店舗デザインには積極的ではない印象でしたが、一応、他の選択肢も検討してみても、見れば見るほど先生にお願いするしかなくなってきて、立て込んだお仕事の中を無理やり、強引にお願いしてお引き受け頂いたのでした。
鍼灸院のデザインについて、皆様はどんな風にイメージされるでしょうか?一番多いのは、路面店の鍼灸接骨院、たくさんベッドが並んでいて、電気医療器具が配置され、ベッドの間はカーテンで仕切られ、煌々と蛍光灯で明るく照らし出されているイメージではないでしょうか?
私は、蛍光灯が苦手で、明るすぎると落ち着かなくなります。もちろん、医療機関としての明るさの必然性はよく理解できます。でも、漠然と自分の開業する鍼灸院をイメージしているときから、明るさは最低限にしたいと思っていました。現代女性の駆け込み寺、アジールというコンセプトのもと、ゆっくりとこころとからだを横たえ、休める場所を作りたかったのです。
高級エステのようなゴージャスな空間ではなく、シンプルでいて、日本古来からの意匠を大切にした和モダンな空間。上町研究所のデザインは、極上の空気感です。
もともと、鍼灸師は目に見えないものを大事にする職業ですし、商業デザイン的なことに力を注ぐことをよしとしない風潮があります。鍼灸の腕さえあれば、患者さんはいらっしゃるし、治っていかれる。余計なことに氣を遣うべきではない。
もちろん、それには深く肯くものがあります。鍼灸の研修会で、硬い机の上にタオルをひいただけの空間で、ぐるりを沢山の先生方に囲まれて、衆目監視のもと、5分10分の鍼であっという間に症状がとれてしまうこと、私も何度も経験しています。鍼やお灸の醍醐味はそういう時に最大限に感じます。
でも、何年経てばそんな名人芸に到達できるのか、私には予想もつきませんし、そこに辿り着くまで開業しないと決めれば、死ぬまで開業できないでしょう。
ですから、私はあらゆる力をお借りして、この場を作りたいと思いました。まず、奈良という土地の力。光明皇后さまの物語の力。町家という建物の力。そして、空間の力を定方先生に。
出来上がってから、ベッドに初めて横たわった時、高い天井、太い梁、空気が柔らかく、時間がゆっくり流れるのを感じました。こんなに優しい穏やかな空間なら、きっと疲れていても、肩の荷をなかなか下ろせない頑張り屋さんの女性も、少し、荷物を下ろしてみようと思って下さるのではないか・・そう思えました。
ならまち月燈はオープンしましたが、まだまだ未完成です。でも、温かく柔らかな時間があなたをお待ちいたしています。